−−桜井氏の師でもあり、全国に約1万人の会員を持つ「温泉ソムリエ協会」の家元・遠間和広氏。
温泉ソムリエの歴史や今後の展望、また温泉ソムリエ師範としての桜井氏について伺いました。

小さな温泉郷からはじまった「温泉ソムリエ」の歴史

「温泉ソムリエ」はどのようなきっかけで誕生したのでしょうか?

私は新潟県の妙高市にある赤倉温泉で、「遠間旅館」という温泉旅館を経営しています。
かつての赤倉温泉は「温泉」という名前がついているものの、温泉地よりスキー場としての知名度が高い場所でした。
スキー場が営業している冬場だけでなく、夏場やグリーンシーズンにもより多くのお客様に来ていただきたいという課題がありました。
地元の有志で話し合い、施設の建設やイベントの開催よりも、江戸時代から200年近く愛され続けてきた「温泉」そのものを売りにしよう。そのためには、温泉の魅力についてお客様に説明できるスペシャリストを育てることが、温泉自体を輝かせる一番の方法だということになりました。

そこで、温泉について勉強するために、入浴法や運動生理学を研究している大学の先生にお越しいただき、勉強会を開きました。その方がソムリエの田崎真也さんに似ていたこともあって、「温泉+ソムリエ=温泉ソムリエ」なんてどうかな?と軽い話で実は名前が決まったんです(笑)。
そうして、2002年に赤倉温泉の観光協会を中心に温泉ソムリエの制度がスタートしました。
当時は赤倉温泉の方々が温泉の魅力をお客様に伝えることが目的だったので、温泉ソムリエの資格は赤倉温泉の関係者のみが取得できました。

一般の方に「温泉ソムリエ」が広がったきっかけは何ですか?

「温泉ソムリエ」というネーミングのおかげで、地方新聞などのメディアに紹介される機会が次第に増え、一般の方からも「温泉ソムリエになりたい!」というお問い合わせが多数ありました。
そもそも、温泉ソムリエを始めたきっかけは、温泉の魅力を知って赤倉温泉に来ていただくこと。
温泉ソムリエの資格を取るために赤倉温泉に来ていただければ集客にもつながりますし、実際に温泉地で勉強することで、温泉に対する正しい入浴法や知識もより深められるようになると思いました。

2005年、勉強会と湯めぐりをセットにした1泊2日の「温泉ソムリエ認定ツアー」を赤倉温泉で開催し、これをきっかけに一般の方にも温泉ソムリエの資格が広がっていきました。
その後、あるタレントさんから、「温泉ソムリエは取得したいが、1泊2日のスケジュールがとれない」という相談をされました。
温泉を入ることがセットでなくても、もともと温泉好きな人であれば「温泉ソムリエ」を取得することで、温泉に行く機会も自然と増えます。その結果、赤倉温泉を始め温泉業界全体の活性化にもつながると考え、2008年からは東京などに出向き「温泉ソムリエ認定セミナー」をはじめました。
現在は私と桜井さんを含め、5名がセミナーを開催しているほか、インターネットを通じて受講することもできます。

1万人の温泉好きがいるから、新しい世界が開けてくる

セミナーが開催できる「温泉ソムリエ師範」になる条件は何ですか?

当初は私一人でセミナーを開催していましたが、私一人ではセミナーを開催する回数も限られてしまいます。きちんと教えられる人がいれば協会全体のフットワークも軽くなり、温泉ソムリエもより多くの人に広がっていきます。そういった経緯で温泉ソムリエに「師範」という制度を作りました。

温泉ソムリエ師範になるためには、まず温泉に対する知識を十分に持った「温泉ソムリエマスター」になる必要があります。次に温泉ソムリエ認定セミナーと同じ内容の模擬講演を行い、合格した人が「温泉ソムリエインストラクター」に認定されます。さらに、インストラクターとしての実力が認められた上、自分が開催するセミナーに15名以上集客することが師範としての条件になります。
温泉に対する知識は当然ですが、説明の上手さや分かりやすさなど講師としての力。そして、圧倒的なオーラで受講生の方を引きつけ、「このセミナーを受講してよかった!楽しかった!」と思っていただけることが大切になります。
抜群の集客力に加え、講師としての実力とオーラ、そして桜井さんが持つ人を明るく楽しくさせる力を踏まえ、師範に認定しました。
約1万人いる温泉ソムリエの中でも、セミナーが開催できる師範は桜井さんを含めてわずか4名しかいません。
桜井さんは温泉ソムリエ協会にとっても、欠かすことのできない存在なのです。

「温泉ソムリエ」が世間に広がったことで、変わったことはありますか?

「温泉ソムリエ」が広がったメリットとして、温泉ソムリエ同士のネットワークやコミュニティが生まれたことが挙げられます。
温泉入浴指導員や温泉観光士など、温泉に関する素晴らしい民間資格はいくつかありますが、これらの有資格者が集まって何かをするということはあまりありません。
温泉ソムリエの方たちは、SNSで情報交換をしたりオフ会を開催するなど、温泉ソムリエ同士の交流が非常に活発です。
特に、桜井さんを中心にしたオフ会は100人規模になることもあり、メンバーで温泉地を訪ねれば活性化にもつながります。
このネットワークは他の資格にはない強みだと思いますね。

温泉文化を未来へ残す大きな力になってほしい

「温泉ソムリエ協会」としての今後の展望を教えてください。

現在、温泉ソムリエを取得するために受講料として2万円ほどいただいていますが、これを還元できるようなシステムネットワークを実現したいと思っています。
例えば、温泉ソムリエの資格がある人は、温泉施設で割引ができるなどといったサービスです。
現在いる1万人という会員数は、業界を動かすには大きな力になり得ますし、規模が大きくなっていけば、影響力もより大きくなります。
最終的には、温泉ソムリエを取得することで知識だけでなく、お得に温泉宿をめぐることができるような形にしたいです。

「温泉宿繁盛コンサルタント」として桜井さんに期待することは何ですか?

桜井さんの一番の強みはやはり「集客力」だと思います。
大手旅行会社に勤めていた経験に加え、100人単位のオフ会を開催する力は桜井さんだからなし得るものだと思います。
実はこの「集客力」はコンサルティングの現場において非常に重要なのです。

例えば、温泉宿で「おもてなしを強化しよう」と課題を挙げても、長い時間をかけないと結果は見えてきませんし、結果が見えなければ従業員のモチベーションも下がります。
そうならないためにも、最初にカンフル剤として「お客様が増える」ことが重要になります。
課題が挙ったときにお客様が増えることで、おもてなしの必要性やお客様にとって大切なことがより明確に理解できます。言われたことをやるのではなく、自分自身が課題を持って改善することが結果にもつながり、ひいては向上心やモチベーションにもつながります。
このようにして宿の自力をつけることが、真のコンサルティングになると私は考えます。

遠間和広プロフィール

1965年、約200年の歴史を持つ温泉旅館「遠間旅館」の長男として生まれる。
東京経済大学経営学部卒業後、株式会社船井総合研究所に入社し5年間勤務。
28歳からは遠間旅館の6代目として、温泉旅館の経営に携わる。
2002年、赤倉温泉で温泉ソムリエの制度を発足。
以後、「温泉ソムリエ家元」として、全国で温泉の魅力や正しい入浴法を広めている。