5軒に1軒が廃業している日本の温泉宿
温泉の歴史は非常に古く、日本では神話の時代までさかのぼります。
怪我や病気に効く療養の場として始まった温泉は、人々の社交の場や観光資源、湯治文化など時代とともに発展してきました。
しかし、世界に誇る日本の温泉文化が、衰退の危機にさらされていることを皆さんはご存知でしょか?
日本の温泉旅館は、約20年で全体の2割・2500軒が廃業しているのです。
バブル期以降の景気の衰退や若者のレジャー離れなど、様々な要因があるにせよ、このままいけば、宿だけでなく温泉文化自体も失われてしまう危機に瀕しています。
「日本の素晴らしい温泉文化を残したい…」という気持ちから、私は「温泉宿繁盛コンサルタント(屋号エアクルーズ)」を開業しました。
温泉宿がなくなる原因は、温泉宿自身にあった!?
温泉ソムリエである私は、同じ温泉ソムリエ仲間とともに、様々な温泉地に足を運んでいます。
しかし、訪れる温泉が増えるにつれ、自分が訪れたことのある宿が廃業したという話を何度か耳にするようになりました。
中でも、碇ヶ関温泉郷の奥にあった湯の沢温泉という温泉地は、温泉街自体がなくなってしまい、私も愕然としました。
秋田県と青森県境の山奥にあり、毎年青森ねぶた祭りの時には立ち寄っては、お宿の方とも「また来年もくるね~」と話していました。
しかし、山の奥地にあってアクセスが不便なことや後継者不足などの条件が重なって、1軒また1軒とお宿がなくなり、2012年にはすべての温泉宿が廃業してしまいました。
数年後、湯の沢温泉の近くを通った際、気になって温泉街へ向かったのですが、入り口にはバリケードが張られて立ち入り禁止に。
車はおろか人が入ることも難しいくらい草がぼうぼうに生えて、道も荒れ放題になっていました。
「この道の先には宝物のような温泉があるのに…。」
宿はなくなり、人がいなくなっても、自然の恵みである温泉は今でもこんこんと湧き出しています。
非常に残念なことですが、このような事態は日本全国で起こっているのです。
温泉宿が次々に廃業していくのにはさまざまな理由があります。
レジャーの多様化や若者の旅行離れ、後継者不足など原因はいろいろ考えられますが、私が考える一番の原因は、「温泉宿自体の力不足」だと思います。
「ホームページもあるし新聞広告も打っている。それに、宿検索サイトにも登録しているおかげで、お客様には来ていただけています!」という異論もあるでしょう。
しかし、「本当の魅力」はお客さまに伝わっているのでしょうか?
世の中の便利なシステムが、温泉宿の力とお金を奪っていく
近年はじゃらんや楽天トラベルといったインターネットのポータルサイトが、集客でも非常に大きな割合を占めています。
お客様は「○月×日に、△△温泉に泊まりたい!」と簡単に調べることができ、宿側もプランの設定や情報の更新など、面倒なことは代理店が代行してくれるため、非常に便利なシステムになっています。
しかし、この便利な仕組みこそがお宿の力とお金を奪っているのです。
代理店が書いた原稿は、「温泉があって料理がおいしくて、客室がきれいで…」という、当たり前のことばかりで、他の宿とほとんど同じ内容しか書かれません。
「ウチの宿はこぢんまりしているけれど、従業員ひとりひとりがお客様目線で手厚いおもてなしをするのが魅力です!」と他の宿と差別化を図るような強みを打ち出 さなければ、結局似たような宿が並び、最終的には価格で勝負せざるを得なくなります。
「隣の宿が安いプランを出したので、ウチはより安いプランで対抗しよう!」
と価格を安くすれば、一時的に集客は増えますが、さらに安いプランで対抗されれば、さらに価格を安くして…と、いたちごっこのような価格競争に陥ります。
結果、サービスの質が落ちてお客様が離れてしまい、最終的には廃業に追い込まれてしまうのです。
宿の個性を知り、伸ばしていくことが大切
私たちひとりひとりに個性があるように、温泉宿にもひとつひとつ個性があります。
混じりっけのない源泉掛け流しの湯、開放感があり眺望が美しい露天風呂、バリアフリーに対応した浴槽など。
温泉ひとつとっても、泉質や眺望、設備など様々な個性があります。
さらに、料理や客室、館内設備や立地、従業員のおもてなしなど、様々な要素が温泉宿というものを構成しています。
温泉宿に求める要素は人によって違いますし、100人が100人満足できる温泉宿は決してありえません。
「山奥にあって交通の便が悪い」という一見デメリットに思えることでさえ、「自然に包まれた静かな環境」という魅力としてとらえることができます。
自分たちにとって当たり前のことでも、お客様にはかけがえのない魅力に感じることだってたくさんあるのです。
チーム桜井では、コンサルティングの一環として、最初に宿診断から始めます。
自身の魅力や強みを知り、お客様の求めていることと照らし合わせ、業務やPRの仕方など、さまざまなポイントからアプローチしていきます。
従業員のサービスや料理、施設などを改善していくことで、お客様に「泊まりたい!」とより思っていただけるお宿に成長するでしょう。
家電量販店時代で得た、商品販売の接客、売場づくり、POP、物流等の企画力と表現力
旅行会社で得た、集客力と影響力
温泉ソムリエで得た情報力と発信力
私がもつ強みに加え、多方面で実績を残す「チーム桜井」のメンバー一丸となって、新しい温泉宿の形を実現します。
笑顔が生まれ、楽しさを共有できる温泉を未来へ
温泉があれば人が集まり、人が集まれば笑顔が生まれます。
私も温泉ソムリエになってからは、仲間と情報交換をしたり、一緒にいろいろな場所を旅することで、一人では知り得なかったすばらしい温泉や、ステキな人たちとたくさん出会うことができました。
温泉ソムリエとして日本の温泉文化を守りたいという気持ちももちろんありますが、根底にあるのは一人の温泉好きという気持ちです。
温泉が生み出す楽しい空間をいろいろな人と共有したいというのが一番の願いなのかもしれません。
桜井一正プロフィール
1972年、東京都杉並区生まれ。
学業を経て、株式会社ヨドバシカメラに入社。
当時最先端の商品を扱っていた新宿本店の店頭にて、通信機器全般の販売を担当。
ネットワークシステムの仕組みを取得しつつ、お客様に分かりやすい売場作りを考え、商品販売支援の企画や仕組みを構築して部署売上を伸ばす。
新しいアイデアで売上をのばした実績で入社5年目からは本社勤務に。
全店舗に商品PRツールを作成する部署を立ち上げる。
社内ネットワークを使い、データを全店舗に配信するシステムを構築したほか、当時ヨドバシカメラ最大級の梅田店や九州初の博多店立ち上げにも参画する。
約10年勤務した後、兼ねてからの趣味であった旅行の業界に得意分野である通信販売を主とした専門分野で株式会社日本旅行に入社。
インターネット宿泊予約サイトの営業として、温泉素材の強い九州や北海道のほか、激戦区である東京ディズニーリゾートや関東近郊の温泉宿を含めたリゾート施設を担当する。
その際「温泉ソムリエ」の資格と出会い取得。
以後、温泉に対する造詣がより深まり、全国の温泉地をめぐり、2014年10月に温泉ソムリエの講師資格である「師範」を取得。
現在は、全国各地で温泉ソムリエセミナーや観光協会、旅館組合向けの講演を開催するかたわら、温泉宿のコンサルティングやツアープランナーとしても活動している。
旅行会社関連では、クラブツーリズム社の専属ゴールドツアーディレクターとして温泉宿の活性化と顧客満足サービスに努めている。
また、温泉の趣味が高じて「海水は極上の温泉成分」であることから全身で温泉成分を吸収できてヒーリング効果の高い海のレジャーとして、身近なものにするべく設立したダイビングスクール「エアクルーズ・スキューバダイビング」でも代表も務める。
「自分が大好きな温泉を未来へと残したい」という思いを胸に、温泉文化の発信と啓蒙に尽力している。